Research

最近の取り組み

矢嶋 赳彬 研究テーマ

y-1. 物質の相転移を用いた省エネ&高速センサ

現実世界と情報空間を媒介するのがセンサです。従来のセンサの多くは、センサ材料の僅かな特性変化を、ADコンバータなどの電子回路によって「測定」し、情報を抽出していました。この方法は、精度や汎用性を高めるのには向いていますが、無数のIoTデバイスに活用するには冗長で無駄が多い方法です。実際に、生物の神経回路が持つセンサ器官の多くは、センサ自身が高い非線形によって「測定」することで徹底的に無駄を省いています。本研究では、非線形現象の典型である物質の相転移に着目し、転移を挟んで物性値が大きく変化する性質を使って、デジタル回路に直接埋め込めるニューロモルフィックなデジタルセンサを開発しています。材料自身が「測定」を行うことで超低消費電力かつ高速なセンシングが可能となることから、電子回路の制約されない新しいセンサの枠組みとして期待しています。
(例)酸化バナジウム(VO2)の金属絶縁体転移を利用した、超低エネルギ(~fJ)かつ高速(~ns)な温度センサ

矢嶋 赳彬 研究テーマ

y-2. 電子とプロトンを用いたニューロモルフィック素子(M社と協力中)

電子回路の性能は電子の振る舞いによって制約されています。消費電力とスピードのトレードオフなど、電子回路に様々なトレードオフが存在するのもその一例です。一方で、神経回路ではイオンが主役であり、イオンが果たす電気化学的な役割を利用すれば、電子回路で当たり前とされてきた制約またはトレードオフを打ち破れる可能性があります。本研究では、最小のイオンであるプロトンが固体中を自由に動き回れることに着目し、「電子」と「プロトン」を固体デバイス中で同時に制御することで、従来のエレクトロニクスとは根本的に異なる新しい機能を実現します。ヘテロ構造に基づく電子デバイス理論に相転移物理と電気化学を融合した新たな分野を構築します。
(例)酸化物材料中のナノスケールプロトン分布と電圧制御

矢嶋 赳彬 研究テーマ

y-3. ニューロン回路を用いた超省エネ電子制御(M社、N社共同研究)

無数のIoTデバイスが現実世界と情報空間を相互に接続しようとしています。この時、個々のIoTデバイスには、これまでにない厳しい低消費電力性が求められます。従来のデバイスは現実世界とは独立に「クロック」と呼ばれる内部時間を刻むことで大量の情報を処理しますが、IoTに求められる厳しい低消費電力性を満たすことができません。本研究では、生物の神経回路がスパイク信号を介して現実世界とリアルタイムに結合しながら動作する点に着目し、スパイク信号に基づくリアルタイムかつ無駄のない電子制御の実現を目指します。
(例)ニューロン回路を用いたデジタルパターン生成と、それによる環境発電用電源回路の制御

矢嶋 赳彬 研究テーマ

y-4. ニューラルネットのアトラクタに基づく情報処理ハードウェア (井上CRESTプロジェクト)

電子回路における情報は0/1の電圧信号で表現されていますが、神経回路における情報は全く異なる形態をとっており、電子回路にはない柔軟な情報処理を実現しています。本研究では、レザバーコンピューティングのFORCE学習アルゴリズムを手掛かりに、ニューラルネットに形成される動的アトラクタを基盤とした新しい情報表現と、そのためのハードウェア構築を目指しています。
(例)スパイク信号を用いたレザバーとその応用

川上 哲志 研究テーマ

k-1. Noise-Driven Computer

情報処理に本当にエネルギーが必要なのでしょうか?この問に立ち向かう雑音駆動形の新計算原理を研究しています。本来,クロック信号によってスイッチングする超電導単一磁束量子回路を熱雑音で駆動する領域で活用し,可逆論理ゲートで演算を実現します。本研究では,人類の夢であるゼロ・エネルギーコンピューティングの実現に向け,計算原理・回路・アーキテクチャを刷新します。

川上 哲志 研究テーマ

k-2. Photonic Compute

シリコンフォトニクスやナノフォトニクスの技術が進展し,大量の光素子を集積することが可能になりつつあります。これにより,光子を情報担体とする計算機が実現可能となってきました。光速性と低電力性 (less than 1photon/OPs) を兼ね備える計算機を目指します。本研究では,現代の CMOSコンピュータとは一線を画す新しい光電融合型アクセラレータの実現します。

川上 哲志 研究テーマ

k-3. Ultra low power ASIC

あらゆる環境でのセンシングを想定するならばセンサノードの電力供給には環境発電を用い,尚且つ環境毎に適応的に駆動することが不可欠です。本研究では,効率的な環境発電を達成するために,環境発電用電源回路向け強化学習計算機を実現します。環境の微細な変化にセンサノード自らが適応し,最適な電力供給を元に稼働する完全自立型の汎用エナジーハーベストシステムを目指します。

川上 哲志 研究テーマ

k-4. Self-driving Computer

自動運転の実現には,高性能・低電力な組み込みプロセッサーが不可欠です。特に,LiDARによる空間認識は,極めて短い時間に大量のデータを処理する必要があります。本研究では,車載のセンサー情報の収集・高速処理が可能な専用計算機の構築を実現します。企業連携による実計測データや仮想空間上でのシミュレーションを活用し,自動運転の実現に向けた社会実装を目指します。

過去の取り組み

矢嶋 赳彬 研究テーマ

y-a. ワイドギャップ薄膜トランジスタ

ディスプレイ用の薄膜トランジスタに代表されるように、高移動度の薄膜トランジスタ(TFT)は様々な基板上への回路実装を可能にし大きな付加価値を生み出します。様々な酸化物半導体が薄膜トランジスタのチャネル材料として研究されてきました。TiO2は古くから知られる酸化物半導体であるにも係わらず、薄膜トランジスタの研究は少なく、電界効果移動度の報告値は1cm2/Vs以下とアモルファスSiにすら及びませんでした。一方で、TiO2多結晶薄膜のHall移動度は20cm2/Vs以上とアモルファスInGaZnOをも凌いでおり、トランジスタ作製の際にTiO2の結晶相と結晶欠陥の自由度を制御できていないことが懸念されます。本研究では、TiO2の製膜プロセスと熱処理プロセスとによって、結晶相と結晶欠陥とを独立に制御できることを明らかにし、TiO2を用いた薄膜トランジスタでInGaZnOに匹敵する電界効果移動度を実現できることを初めて実証しました(~10cm2/Vs)。これは、材料の内部自由度を的確に制御して、TiO2本来のポテンシャルを引き出した結果だと言えます。

矢嶋 赳彬 研究テーマ

y-b. 酸化物エピタキシャル界面のダイポール制御

トランジスタや太陽電池等、半導体デバイスの機能は、界面の電子のバンドアラインメントによって決まります。従ってバンドアラインメントを自在に制御できれば理想的ですが、現実のバンドアラインメントは界面を構成する各材料の電子エネルギーによって一意に固定されてしまいます。静電学的には、界面に正負の電荷対を挿入することで、ダイポールモーメントの大きさだけバンドアラインメントをずらすことができます。しかし、共有結合性が強い半導体材料においては、大きな界面ダイポールを自在に挿入することは難しい状況でした。一方で、イオン結合性が強い酸化物半導体であれば、正負のイオン電荷を原子レベルで積層して大きな界面ダイポールを設計できるかもしれません。本研究では、SrRuO3(金属)とSrTiO3(N型半導体)のエピタキシャル界面が作るショットキー接合において、界面に~Åレベルの正負の電荷対を挿入し、バンドアラインメントを約2eVの範囲で大幅に制御できることを実証しました。これによって、接合界面の電気特性は、ダイオードからオーミック接合まで劇的に変化します。特に厚み1nm以下の原子レベル平坦なLaAlO3層は、絶縁膜としてよりもむしろダイポール層としてバンドアラインメントを変化させることを発見し、近年スピン注入や光電気化学において利用されています。このように酸化物界面には、イオン結合性ならではの大きな設計自由度が存在売ることを示しました。

矢嶋 赳彬 研究テーマ

y-c. ホットエレクトロントランジスタ

3d軌道に電子を持つ遷移金属酸化物においては、典型元素からら成る一般的な半導体や金属と比べて電子が局在しかかった状態にあり、電子が持つ自由度と格子フォノンの自由度とが絡まって多彩な相転移現象を引き起こします。そこでは、複数の自由度が絡み合った時に材料の電子準位がどう変化するのか明らかにする必要があり、そのための手段として光電子分光や走査型トンネル分光が活用されてきました。一方で、半導体の歴史を顧みれば、ホットエレクトロントランジスタと呼ばれる3端子デバイスを作製することで、トンネル接合またはショットキー接合から材料中に高エネルギーの電子(ホットエレクトロン)を注入し、その平均自由行程を評価することができます。これによって材料内部の電子準位とその寿命を極めて簡便に高い感度で測定することが可能なはずです。本研究では、遷移金属酸化物材料を用いたホットエレクトロントランジスタの動作実証に初めて成功し、遷移金属酸化物の物性研究のための新しい研究手法を確立しました。